2020-01-01から1年間の記事一覧
ビヴァリー・ラファエルの『災害の襲うとき』は、いちいちメモをとりたいところが多く、ほとんどすべてのページに付箋をいれてしまっているようなありさまだ。(先日のノートで、ラファエルをアメリカの研究者と書いてしまったけれど、オーストラリアの研究…
街中に戻ってから、車から降りることもなく、それぞれの車は分かれた。私たちはスティーブとボニーの家へ。鍵のかかっていない玄関から家に入ったあと、私は部屋で休むことにした。日本との12時間の時差があるこちらで午後に入ると、日本は深夜になる。その…
先導するスティーブの車はアスファルトで舗装された公道から脇道に入り、わずかに砕石舗装された凸凹道を走り始めた。やがて、道路は砕石もなくなり未舗装の砂地そのままの裸道になった。スティーブのRV車は平然と走るけれど、アランの乗用車は大変そうだ。…
アランの運転する車は、砂漠を突っ切って走る道路を、スティーブの埃だらけのRV車の後ろについて北上していく。ハンドルを握りながら、アランは、自分たちはこの道をずっと北にカナダ国境側に向かって4時間くらい走った街に住んでいるんだ、と説明する。働い…
今年の3月6日付けの朝日新聞東日本大震災特集に、いささか地味とも思える記事が載っていた。宮城県石巻市で津波に巻き込まれて亡くなった身元不明者の身元がようやく特定できて、血の繋がらない縁戚に引き取られたというニュースだった。宮城県警の担当者が…
Twitterで相互フォローしている写真家の稲宮康人さんに恵投いただいた。(わざわざ書かなくていいと思われるかもしれないが、一度、「恵投いただいた」と言ってみたかったのである。)最初に告白しておくと、お送り頂いた写真集とそこに映し出されているもの…
ここのところ、アメリカの作家や研究者の本を読む機会が多い。ソルニット、ホックシールド、フレッド・ピアス、いま読み進めている途中のケイト・マン、それから、スロビックにビヴァリー・ラファエル。たまたま、関心傾向を追っていたらアメリカの作家が重…
翌朝、起きてキッチンにあがると、ボニーが窓の脇に置かれた小さな二人がけのテーブルの椅子に腰掛けて、編み物をしていた。編み棒を操って編み物をしている人を見るなんて、いったいいつぶりだろう。高校の時以来かもしれない。私を見ると、編み物から目を…
荷物をまとめて上の部屋にあがると、スティーブは玄関のすぐ右手の居間のソファに腰掛けて本を読んでいた。彼は、いまインドの独立運動についての本を読んでいるんだ。そう言って開いていた本の表紙を私に示した。ガンジーの写真だ。彼は、ヨーロッパ諸国は…
パスコ空港に降り立った飛行機はそのままタラップを地上に下ろし、乗客たちは順に階段を降りていく。好天。空が広い。ただっぴろい平野に乾いた空気。気温は少し暑いくらいだけれど、乾燥しているから、鬱陶しいような暑さではない。日本では長雨が続いてい…
コロナウィルスの感染拡大のともなって発令された緊急事態宣言は、明確な基準がないまま発令された。政府による強権発動は、それが他国と比べていかに緩やかなものであったとしても、社会に与える影響は、心理的なものも含めて甚大なものとなり、発令時より…
スティーブにメールを送ったものの、彼に理解してもらえるとは思っていなかった。概して、専門家はプライドが高い人が多く、理解を示してくれる人は最初から好意的だし、そうでない人はずっと否定的なままで、いくつかの例外を除くと途中で自分の見解を変え…
原発事故のあと、政府によって無数の基準が設けられた。そのなかでももっとも影響を残したものが、避難区域の設定だろう。発災直後の、3km、5km、10km、20kmと出された避難指示は、一ヶ月後に放射線量の高い地域が加えられ、最大のものとなった。4月22日頃…
わがホストファミリー、スティーブからは、すぐに家族がクリスマスに集まった時の写真が送られてきた。原子力技術者だ、と自己紹介してある。やれやれ、困ったことになった。アメリカでは福島の原発事故に対する関心は非常に薄い、という話は、以前、他のア…
ロサンジェルスのごった返す空港から、2時間遅れの国内線に乗り換えると、中型機の狭い機内はアメリカ人とおぼしき体の大きな人ばかりで、誰も彼もがくだけた英語を話すものだから、そうでなくともおぼつかない英語力ではまったく聞き取れない。日本から乗っ…
毎朝、日課のニュースチェックをしていて、まだ眠気の抜けないぼんやりした頭に、やにわに鳩が豆鉄砲くらったような風情で、珈琲を飲み直し、なにか読み間違えをしたのではないかと思い、読み返してしまった。 (寄稿)人文知を軽んじた失政 新型コロナ 藤原…
リスク・コミュニケーションは、言葉だけの問題ではなく、統治機構や社会システムの問題でもある、とは書いてきたのだけれど、一方で、「言葉」の問題であることも間違いない。今回のパンデミックに関する専門家会議の発信は、原発事故の時よりははるかにマ…
2011年の原発事故のあと、書いてきた文章や発表が気がつけばそこそこの数になってきたので、まとめてみました。Here is a list of papers and presentations I have written so far on radiation and the nuclear accident.論文/Papers・水野義之、鎌田陽子…
『心の傷を癒やすということ』『災害が本当の襲った時』、両書のなかで頻回に触れられていたので、購入した。新書だと5,000円を超える、ちょっと手を出すのがためらわれて、オンライン古本屋書店(https://www.kosho.or.jp)で購入。1986年初版で1995年刷、…
1995年1月17日におきた阪神淡路大震災について書かれた本。2冊を並べるのは、当時、神戸大学の精神科で教授で、いわば指揮官として振る舞った中井久夫氏と、現場隊長であった医局長の安克昌氏、二人の視点でひとつの出来事をみると、一層深く読めると思うか…
本日付の毎日新聞に韓国の疾病管理本部の感染症対策における「リスク・コミュニケーション」部門の動きについて詳しく伝えられていた。 韓国の感染症対策に見るリスクコミュニケーション | オアシスのとんぼ | 澤田克己 | 毎日新聞「政治プレミア」 韓国の新…
卒業論文に中原中也論を書いた。と書くと、近代文学が専攻だったのかと思われるかもしれないが、私が専攻していたのは、比較文化学類現代文化コースという、なにをやっているのかわからないコースで、実際、同じコースの中に英文学、仏文学、文化地理学、人…
誰もがそうであるように、このコロナウィルスの影響で、あらかたの行事が飛んでしまったため、この機会に読書をすることに決め、いつにないペースでたまっている本を読み進めている。どの本も、読めば新しい発見があり、得ることがある。読書とはすばらしい…
よい本だった。こういう描写のしかたの文章を自分も書いてみたいと思わせる、人間味のあふれる穏やかな、それでいて深い悲しみのある文章。つづいて、安克昌『心の傷を癒すということ』を読み始める。これは宮地尚子さんが『みすず』の今年の5冊のなかに、…
なんの因果か、原発事故が起きてからずっと後処理のことを考えているのだけれど、そこでもっとも問題となることのひとつは、統治機構のありかただ。放射線量やそれの健康や生活への影響というのは、もちろんベースにあって重要ではあるのだけれど、対応その…
プリーモ・レーヴィの『休戦』を読みながら、日を過ごす。この本は、ずいぶん前、震災よりももっと前だから10年以上前に、図書館が蔵書整理した時のリサイクル図書として持ち帰り自由になっていたものをもらってきた。ほとんど一度も開いた形跡もないのだけ…
経済活動と国民の生命がバーターになっているかのような議論をみながら、これもまた原発事故の後に起きた議論とそっくり同じだなと思いつつ、条件の違いを加味し、考えている。つまり、原発事故の場合は、よほどの高線量でない限りは放射能の健康リスクは遷…
noteにつらつらとなにかを書いては、下書き保存ばかりしているものだから、下書きフォルダばかりが増えていく。最初から公開するつもりなく、後から自分で読み返そうと思って書いているものも多いのだけれど、書いてみてわざわざ公開するほどのものでもない…
欧米での感染拡大おさまらず、日本は新型インフルエンザ特措法にもとづく「非常事態宣言」を出すか出さないかやきもきしているといったところ。もっとも出したところで、欧米のようなロックダウンといった私権の制限はほとんど行うことができないような条文…
COVID-19の中国武漢におけるパンデミックを「中国のチェルノブイリ」と書いている記述を読んで、ああ、なるほど、と思った。英語圏の報道では、このパンデミックを地政学として捉えている論説が多く出されているようだ。そういえば、宮地尚子氏の『環状島 ー…