2020-05-01から1ヶ月間の記事一覧

(読書メモ)『災害の襲うとき』 住まいを失うこと 2

ラファエルが住まいを失うことによるストレス要因で二番目にあげている「不慣れな環境」について。その冒頭に、先日、私が書いていたのと同じことが書いてあった。家というものの物理的な環境とその適切な機能に対し人間がいかに依存しているかは、その喪失…

スティーブ&ボニー (13) いまはいい友達

あたりが薄暗くなりはじめる頃、歓談していた一同がバラバラとリアクターに向かいはじめた。コンサートがはじまるようだ。銀色に輝くリアクターのアルミニウム管を背景に、仮設のステージが設置され、グランドピアノが置かれている。黒い衣装に身を包んだ男…

リアリティショーとしての復興

リアリティショーに出演していた女性が、SNSでの誹謗中傷を原因として自死をしたのではないかというとても痛ましい事件が起きた。(死因については公表されていないので、推測によるものである。)リアリティショーという言葉は初めて知ったが、一般参加者の…

(読書メモ)『災害の襲うとき』 住まいを失うこと

『災害の襲うとき』のなかでは、一章を「立ち退き・仮住まい・再定着」に費やしている。これが大きなストレス要因になるからだ。住まいから離れる/失うことに関してのストレス要因について、ラファエルは次のようにリスト化している。⒈ 人間の尊厳性の喪失と…

スティーブ&ボニー (12) 砂漠に夕日は落ちる

天井に太いパイプが通る廊下をとおりぬけて、まるで映画で見た宇宙船の操縦室のような部屋に入る。部屋の中央奥には測定器機類にぐるりと囲まれた操縦台のようなデスクがあり、大きな椅子がひとつ置いてある。中央コントロールルームだ。部屋の壁には、びっ…

スティーブ&ボニー (11) 「BUY U.S. SAVINGS BOND」

バスは右折し、昨日は通り過ぎたハンフォード・サイトの入り口のゲートを入った。砕石舗装の道路の両側にコンクリートブロックを二段積んで、白いポールが横に渡してあるだけの簡素なゲート。少し日が陰りはじめた。見渡す限りの地平線に、ずっと向こうにな…

(読書メモ)『災害の襲うとき』 自主独立への欲求を阻むもの

自分が経験したことを、自分の経験よりもはるか以前に書かれた書物を通じて後方視的に振り返ることは、奇妙な経験だ。予言書を破局が訪れたのちの未来から読み直すようなものだ。これからふたたび予言書を書くことがあったとしても、かつての予言書の焼き直…

スティーブ&ボニー (10) キャラバンは砂漠をゆく

家に帰ると、ガレージには先ほどの集会で会ったスティーブの知人がいた。ボニーと話しながら、テントを片付けようとしている。どうやらテントはスティーブの所有物のようだ。Tシャツに半パンのラフな格好をした栗色の短髪の背の高い男性は、スティーブとボニ…

(読書メモ)『災害の襲うとき』被災地への眼差し

ビヴァリー・ラファエルの『災害の襲うとき』は、いちいちメモをとりたいところが多く、ほとんどすべてのページに付箋をいれてしまっているようなありさまだ。(先日のノートで、ラファエルをアメリカの研究者と書いてしまったけれど、オーストラリアの研究…

スティーブ&ボニー (9)

街中に戻ってから、車から降りることもなく、それぞれの車は分かれた。私たちはスティーブとボニーの家へ。鍵のかかっていない玄関から家に入ったあと、私は部屋で休むことにした。日本との12時間の時差があるこちらで午後に入ると、日本は深夜になる。その…

スティーブ&ボニー (8)

先導するスティーブの車はアスファルトで舗装された公道から脇道に入り、わずかに砕石舗装された凸凹道を走り始めた。やがて、道路は砕石もなくなり未舗装の砂地そのままの裸道になった。スティーブのRV車は平然と走るけれど、アランの乗用車は大変そうだ。…

スティーブ&ボニー(7)

アランの運転する車は、砂漠を突っ切って走る道路を、スティーブの埃だらけのRV車の後ろについて北上していく。ハンドルを握りながら、アランは、自分たちはこの道をずっと北にカナダ国境側に向かって4時間くらい走った街に住んでいるんだ、と説明する。働い…

その死は誰が弔うのか

今年の3月6日付けの朝日新聞東日本大震災特集に、いささか地味とも思える記事が載っていた。宮城県石巻市で津波に巻き込まれて亡くなった身元不明者の身元がようやく特定できて、血の繋がらない縁戚に引き取られたというニュースだった。宮城県警の担当者が…

稲宮康人・中島三千男『神国の「残影」』(国書刊行会)

Twitterで相互フォローしている写真家の稲宮康人さんに恵投いただいた。(わざわざ書かなくていいと思われるかもしれないが、一度、「恵投いただいた」と言ってみたかったのである。)最初に告白しておくと、お送り頂いた写真集とそこに映し出されているもの…

パンデミック雑感11 その知はなんのために

ここのところ、アメリカの作家や研究者の本を読む機会が多い。ソルニット、ホックシールド、フレッド・ピアス、いま読み進めている途中のケイト・マン、それから、スロビックにビヴァリー・ラファエル。たまたま、関心傾向を追っていたらアメリカの作家が重…

スティーブ&ボニー (6)

翌朝、起きてキッチンにあがると、ボニーが窓の脇に置かれた小さな二人がけのテーブルの椅子に腰掛けて、編み物をしていた。編み棒を操って編み物をしている人を見るなんて、いったいいつぶりだろう。高校の時以来かもしれない。私を見ると、編み物から目を…

スティーブ&ボニー (5)

荷物をまとめて上の部屋にあがると、スティーブは玄関のすぐ右手の居間のソファに腰掛けて本を読んでいた。彼は、いまインドの独立運動についての本を読んでいるんだ。そう言って開いていた本の表紙を私に示した。ガンジーの写真だ。彼は、ヨーロッパ諸国は…

スティーブ&ボニー (4)

パスコ空港に降り立った飛行機はそのままタラップを地上に下ろし、乗客たちは順に階段を降りていく。好天。空が広い。ただっぴろい平野に乾いた空気。気温は少し暑いくらいだけれど、乾燥しているから、鬱陶しいような暑さではない。日本では長雨が続いてい…

パンデミック雑感11 避難指示解除のための基準ー20ミリシーベルト考

コロナウィルスの感染拡大のともなって発令された緊急事態宣言は、明確な基準がないまま発令された。政府による強権発動は、それが他国と比べていかに緩やかなものであったとしても、社会に与える影響は、心理的なものも含めて甚大なものとなり、発令時より…

スティーブ&ボニー (3)

スティーブにメールを送ったものの、彼に理解してもらえるとは思っていなかった。概して、専門家はプライドが高い人が多く、理解を示してくれる人は最初から好意的だし、そうでない人はずっと否定的なままで、いくつかの例外を除くと途中で自分の見解を変え…

パンデミック雑感10 そのリスクはどれほどのものなのか?

原発事故のあと、政府によって無数の基準が設けられた。そのなかでももっとも影響を残したものが、避難区域の設定だろう。発災直後の、3km、5km、10km、20kmと出された避難指示は、一ヶ月後に放射線量の高い地域が加えられ、最大のものとなった。4月22日頃…