2019-01-01から1年間の記事一覧

時間がつながる

年越しは、毎年、南相馬の夫の実家で過ごす。鹿島の海沿い、津波からは逃れた本家に顔を出し、98歳の伯父に挨拶をした。伯父の世話のために実家に戻っている従兄が本を何冊も買って親戚に配ってくれたというので、礼を言う。この従兄の奥さんが、本の比較的…

自主避難者と呼ばれる人のこと

「福島のエートス」と呼ばれる活動がはじまったのは2011年の11月だったと記憶している。まだ具体的になにをすると決まっていたわけではなかったが、この活動は、もともと被災地域の残って暮らす住民を助けることを目指していた。だから、この活動をはじめる…

パディントン

なんだか心が疲れたな、と思ったときには、映画『パディントン』を見ることにしている。(1、2ともにDVDで買いそろえてある。) パディントンの苦闘に涙し、ブラウン家の家族愛に癒やされ、パディントンもがんばってるんだから、もう少しがんばってみるか、…

除染のこと

今回の東京電力福島第一原発事故を象徴する事業は、放射線測定でも、廃炉作業でもなく、除染とそれに続く中間貯蔵施設事業になるだろう。莫大な量の除染廃棄物とフレコンバッグは、原発事故の被害の大きさを端的に視覚化したように見える。実は、いまやその…

ただ与えられる言葉を信じよ、と

惑いのうちにある人びとから語られる言葉は、しばしば、この現実を明瞭に描き出す。それはあたかも天啓のように、進路を指し示す。彼らは惑いながらも、行く方を知っている。惑いのなかにあるからこそ、なにが混迷を生み出しているのかを知っている。ただそ…

年寄りに恥をかかせる

年寄りに恥かかせっ気じゃあんめぇな、と笑って言いながらも、目が笑っていなかったから、万事うまく取りはからうから、と、帰宅してあわてて素材のスライドつくりに取りかかる。彼の家を訪ねたときの写真を眺める。幾枚も幾枚も幾枚も、角度を変え、場面を…

それを愛と呼ぶのならば、きっと

私とあなたの物語がすべて終わったあとに、そんなタイトルの小説を書いてみたいと思った。それは私からあなたへの恋文であると同時に、私とあなたの墓標となるだろう。どのような文章のなかでも、失われたものへ宛てた恋文は、なにより美しく、人の心を打つ…

心的事実によって構築される世界

ホックシールド『壁の向こうの住人たち』は、「ディープストーリー」すなわち、「その人にとって真実と感じられる物語」を聞き取り、分析の対象としている。2015年あたりから顕著になったSNSでの論調はこれに近いのかもしれない。「ディープストーリー」は、…

不確実性を生きる、幅を生きる

2015年3月『5 Designing Media Ecology』という自主制作雑誌の「3・11後の科学と生活」という特集で、東京大学の佐倉統さんからインタビューを受けた記事を久しぶりに読み返した。インタビューそのものは2014年年末だったのではないかと思うけれど、当時から…

私信に代えて

それはたんなる思い込みに過ぎなかったのかもしれない。140文字の短い文字の羅列を発信した時、向こう側に「誰か」の表情が見えることがあった。直接リプライが飛んでくるわけではない、いわゆるエアリプで会話が行われているわけでもない、オンラインにその…

喪失の時代

ホックシールド『壁の向こうの住人たち』を読みはじめている。この本は、ニューヨーク、ワシントン、サンフランシスコといった東西海岸沿いの裕福なリベラル都市住民にとっては衝撃的であったトランプの大統領当選と、彼への支持を生み出す土壌を、その支持…

昨日、山木屋で

芋煮会に顔を出したら、ちょうど自分が出ている「こころの時代」の録画を皆で鑑賞中で、画面に大写しになった自分の顔に思わず仰け反った。大勢で鑑賞するのはさすがに面映ゆかったので、帰宅後、録画した番組を眺め、じっくりと自分の表情の動きを見ていた…

キャラ化、ネタ化 vs 無辺の未知

ネット上で女性の胸を強調したキャラクターをポスターに使うことの是非を巡る論争が起きていたが、それについての対立する双方による対談(論戦?)が行われたという記事を目にした。そこに「キャラ化したい人」と「キャラ化されたくない人」の争いのように…

風邪

フランスから戻ってすぐから鼻の調子がおかしく、鼻炎が悪化したのかと思っていたら、だんだんひどくなり発熱。風邪のようだ。乾燥した飛行機のなかでうつったのだろう。隣席の若いカップルが用意周到にマスクをしているのを見て、マスクを用意しておけばよ…

グローバリズム雑感

本日の全日程終了。南フランスが会場だったせいだと思うのだが、朝8時半から夕方6時まで開催されるうちの合計で3時間以上は昼食とコーヒーブレイクの時間に費やされ、その後、夕食は20時から22時過ぎまで続くという、飲食に費やす時間が異様に多い日程だった…

2019秋旅日記 〜ワークショップ編

現在まとめられているドキュメントを元に、適当に(「適切に」ではなく、「行き当たりばったり、たまたま」という意味で)座っている各テーブルごとにディスカッションをしてそれぞれのテーブルで意見を述べていく形式のワークショップ。英語力があるとかな…

2019秋旅日記 〜TERRITORIES勧告編

3日間に及ぶワークショップは、ここ数年にわたって検討されてきた放射性物質による長期汚染地域の通常核廃棄物と原子力災害後の二つの管理方針について、社会ー経済的側面を含めた勧告をまとめることを目的としている。参加者はヨーロッパ各国で、EUの正規加…

2019秋旅日記 〜主目的編

シャルル・ド・ゴール空港に飛行機が降り立った。天気は悪くない。雨の予報だったからよかった。隣のシートに座っていたパステルピンクのニットのワンピースを着た若い女性が窓の外を見ながら、胸の高鳴りを抑えきれない、といった様子のかすかにうわずった…

未だ到来していないもの

南相馬市小高町に「フルハウス」という本屋がある。作家の柳美里さんが震災後に移住してきて開いた本屋で、建物の裏手には倉庫を改造した劇場もある。一昨日はそこで行われた、やはり柳さんが主宰する青春五月党の演劇公演を見てきた。公演終了後、立ち寄っ…

「死にたい」と思ったときには、

「死にたい」とこぼしてもええんよ。世の中には、「死にたい」が人の姿をしてようやく歩いている人間なんて山のようにいて、どうにかこうにか一日一日生きることをつないでいたりする。衣食住足りていても、愛されていても、それでも「死にたい」と思ってし…

ここにいる意味

自分がここにいる意味を考えることがしばしばある。おそらくは現実にはなんの役にも立っていない。足を運び話を聞かせてください、と、なんの役にも立たないのにお願いして回る。お願いしてまわっているこの私はなんなのだろう。けれど、きっとこんなことは…

2019年10月10日 論座に寄稿しました。

福島第一原子力発電所構内に溜まり続けている「水」について、記事を寄稿しました。海洋放出に賛成/反対か、あるいは、科学的に安全/危険か、といった二者択一の選択を迫るものではなく、実務上の課題と進め方について記すことに徹しました。こうした現実的…

点描:2019年10月7日

2019年10月7日付け、朝日新聞。「あの頃のように暮らしたい 大熊町、避難指示の一部解除半年」 https://digital.asahi.com/articles/DA3S14209363.html 同じ公営住宅で暮らす人の大半は、まだ顔見知りではない。でも、「すぐに仲良くなれる」と信じている。…

ビル・ゲイツの原子炉

Netflix のビル・ゲイツを特集したドキュメンタリー番組のなかで、彼が出資するベンチャー企業テラ・パワーによる新型の原子炉開発計画について紹介されていた。米中貿易戦争の煽りで、中国での開発を予定していた計画は、現在のところ頓挫という状況のよう…

きょうの日記 2019年8月24日 (『海を撃つ』に書かなかったこと)

震災後の私の状況をある程度知っている方から、著書『海を撃つ』のなかに、私に対して寄せられた批判(というよりもほとんど誹謗中傷)にあまり触れられていないことについて意外であるといった感想をしばしば頂戴する。(いまもネットで私の名前、ないしは…

高原の村

東北の高原の冬は、ただ、凍みる。 奥羽山脈付近で湿度を雪に変えた寒気は冷たく乾いた空気となって、太平洋間近の高地を覆う。 積雪量がさほど多くない代わりに雪に覆われない大地は凍てつき、人の手が入る事を拒む。 厚く凍った地面は金属のツルハシでさえ…

キヨちゃん

中心市街地から阿武隈の山並みへ。ひと山越える毎に、少しばかり拓けた田畑のある集落があり、順に一段、また一段と、階層を上っていく。 一時間ばかり上った山頂のほど近くに小さな集落がある。そこからさらに、車一台がやっとの小さな橋を渡り、砂防ダムの…

きょうの日記 2019/07/14

ホテルのバーの壁にはふたつの大画面、一面にはMBLの、もう一面ではNBAの試合が映し出され、なるほどこれがアメリカか、なんてなんのひねりもない感想が、少しのワインでほろ酔い気分の頭をよぎってゆく。ここのビールが美味しいんだ、と皆で注文した背の高…

虫電話

リリリリリ、リリリリリリ夕刻に、虫の鳴き声が聞こえるようになると、ぬは急にそわそわしはじめます。小走りに外へ向かって、じっと虫の声を聞くと、目をきらきらさせながら、おうちへ走り込んできます。「お山のるーとらたちから虫電話がかかってきたの!…

1コ100えん

近ごろ、「ぬ」の様子がおかしい。 夕方帰宅すると、なんだかぐったりしているし、夜布団に入る前に小さな声で「1コ100えん、1コ100えん」と呟いていたりする。 ここのところの暑さのせいかと思ったけれど、なんだか違うようなので「1コひゃくえん……