2012-11-01から1ヶ月間の記事一覧

■エレ、エレ、レマ、サバクダニ

親和した世界を保つために、ひとは神話をもとめ、悲劇はうつくしき物語として完結する。 その陰にある、無数の悲痛な声に耳をそばだてようとするのは、あまりに無謀な試み。 ただ、うつくしさに身を委ねればよい。 物語にならないかなしみは、ひとの身に余る…

■滴

かなしみは、ひとの掌に受けるには、あまりにおおきく、天からの慈雨として、一滴、二滴、と、しずかに地に垂らせばよい。ふかき器もて、そこしれぬ湖となせば。

■脱落

視界をいろどった色彩が脱落する晩秋に、鳥はうたう。 野山の静寂が近いことを、彼らは知っている。 翼をひるがえし、霜の降りる大気を微動させながら、空の、空へ。 テツ、どうしてるの? と問う声に、軽い戸惑いのような響きをにじませながら、彼女は答え…

■視界

その時、あなたに、なにが見えただろうか。 ベッドに横たわる病人の呼吸は、浅く、早く、そして、薄い。 私は、息を同期し、死に行く人と、感覚を一にすることに努めた。 それが、私に与えられた、唯一できることであったから。 さし迫る死の淵は逃れがたく…