2015-01-01から1年間の記事一覧

久しぶりに訪れた富岡駅は、駅舎の跡形もなく、無骨な鉄パイプのバリケードが、かつてあった場所を示していた。 なんという無粋さ、おおよそ配慮や敬意といった人が持つべき感情のかけらも感じられないこのバリケードを見ても、もはや渇いた悲しみしか湧いて…

そうして、また、光とともに闇も羽化する。 胸元から下げた写真は二枚、津波で流された孫の遺影である。 東京からの人が話すたびに、睨み付けるような眼差しで、写真を持ち上げる。 目の奥に湛えられた深い憎悪。 口元が動いているのが見える。 呪詛の言葉か…

舳先

その海は、暗く、深かったか。 波は引いたか、寄せたか。 水面から遠く沈めば、静けさに満たされたか。 われわれは、海上を漕いでいたのか、さまよっていたのか。 ただただ、舵をとるために。 漕ぐ手は、誰のために、どこへ向かって。 行く方は、舳先だけが…

14時46分

自宅でぼんやりと、低くにぶいサイレンが遠く鳴るのを聞いていた。 サイレンが鳴ってよかった。 もし鳴らなければ、あの日に釘付けにされたまま置き去りになっている私の心の一部は、どうすればいいかわからなかったろう。 忘れないで。 なんて凡庸な言葉。 …

「望みは叶う、けれど、思い描いたのとは、違うかたちで。」