風評被害とメディア報道

Social Amplification of Risk Framework の理論のおかげで、非常にクリアに見えるようになったことがいくつかある。 一つは、風評被害に関する報道についてだ。 処理水放出と「リスク・コミュニケーション」のちゃぶ台返し - 安東量子|論座 - 朝日新聞社の…

ワクチンについて誤った情報への対応について考える

コロナウィルスのワクチンの接種が進むにつれ、誤った情報も広く拡散するようになっているようだ。若年層になるほど副反応も強く出ると言われているので、この先、接種が若年層に広がるに連れ、不安感も広まるのではないかと予測している。 今回のコロナ対策…

リスク学と111勧告

わが友ジャック・ロシャールが、友人がおもしろい論文を出したから送るよ、と添付したメールを送ってきた。福島の原発事故が、欧州でどのように公衆の信頼に影響を与えたかということがSocial Amplification of Risk Framework を用いて考察されている、とい…

猫埋葬記

老猫が死んだ。 その前々日あたりから、外の風通しのよいまったいらな床面の上で寝転んでいることを好んでいたから、洗濯物を干している午前中は足元のコンクリ土間へ寝かせ、昼前、直射日光が強くなりはじめた頃に室内のいちばん窓際の風が通る場所に移し、…

モミジの下で

2匹飼っている猫のうち1匹、老猫のここ数日の衰弱が著しく、食事も取らなくなってしまった。みるみる痩せ細って見ているだけでも気の毒なのだけれど、もともと気難しく、動物病院に連れて行くのもパニックを起こして、死んでしまうのではないかと思うほどの…

note の記事を移しました。

ここのところ、書き物は note にずっとアップロードをしているのですが、ここ1年ほどの連続しておきたnote 炎上で note を使うのを敬遠する方が散見するようになったので、こちらにも記事を並行して載せることにします。 書いて公開するのは、読んでもらいた…

喪明けの桜

長い坂道の両脇に山桜が植えられたのは、震災よりもずっと前のことだ。最初は細い苗木で、幹よりも太い支柱が添えられていた。夏には雑草に埋もれ、そのまま消えてしまうようにも思えた。幾本かは支柱だけを残して消えてしまったようだった。それでも何度か…

25年後の風

いま、テレビ出てたベ。いつも電話がかかってくるのは、晩酌が進み、いい案配で気分がよくなった頃合いなのだろう。電話の鳴る時間で、発信者が誰なのかはわかる。もしもし、と言い終わるのも待たないで、電話口でそう言った。ご覧くださったんですね。あり…

パンデミック雑感 ー10年目を目前に、安全と安心の狭間で

震災から10年目を目前にしての過日の福島県沖地震は、記念日報道が増えていることと相乗して、震災後の騒然とした記憶を呼び覚ましたかのような気配がどことなく流れているように感じられる。 ともなって、廃炉作業中の福島第一原発の原子炉格納容器の亀裂が…

パンデミック雑感 ーコロナと原発事故

パンデミックについては、あまり賢しらに書くのもどうかと思ってしばらく書かないでいたのだけれど、友人に、コロナと原発事故の異同について気になっている人は多いと思うよ、と言われたので、久しぶりに書いてみることにする。コロナと原発事故の共通点は…

「それ」のある風景

いまだいびつに歪んだ防波堤や欄干の残る場所に、均整の取れたラインの巨大な構造物の姿はおおよそ不釣り合いと呼ぶにふさわしいものだった。あるいは、そこがかつて集落があった場所でなければ、ただ、海岸線に沿って太平洋の水平線とだけが延々と続く場所…

未来の人びとへのICRP Publication146

ICRP Publication 146 発刊によせて ICRP(国際放射線防護委員会)から、Publication146が発刊されました。 ICRP Publica ethos-fukushima.blogspot.com 国際放射線防護委員会(ICRP)という放射線の専門家による国際NGO組織が刊行する出版物Publication が…

成田闘争と「水」問題

隅谷三喜男『成田の空と大地』(岩波書店、1996年)は、成田空港建設にともなう強制土地収用問題をきっかけとして起きた反空港運動と政府との対立から和解へと向かう会議の記録である。若い世代はもはや成田空港闘争を知らない人も多いかもしれない。それま…

ハラスメント構造とトラウマ

ジュディス・L・ハーマン『心的外傷と回復』(みすず書房)の冒頭部は、「歴史は心的外傷をくり返し忘れてきた」という章からはじまる。PTSDという病態は、ベトナム戦争の帰還兵の観察から見出されたという経緯がある。トラウマという概念も、それ以降になる…

アカデミアへの不信

2020/10/16 追追記2017年に出ているこの論文のことをなぜ今になって言い出したのかと思われるかもしれないので、以下に理由も書いておく。確かに、この論文の存在は、1年か2年前から知っていた。ひとつめには、ここ一年ほど必要に迫られて英語読解をする機…

仕事丸投げられ暦戦記

10年めの節目を前に、これまでをいろいろと振り返る機会があって、いままで目の前のことをこなすのに精一杯であらためて振り返ってみるに(とは言いつつ、今もいっぱいいっぱいなのだが)、よくやってきたなぁと思うことが多くある。とりわけ、外国勢との付…

スティーブ&ボニー(23) スティーブとボニーへ 愛を込めて [了]

到着翌日コロンビア川のドライブの時と同じ、砂漠と果樹園と畑がパッチワークされた景色を走り抜けて帰路についた。帰り道に、土埃の漂うなだらかな丘の合間に見えるプラントのような建物を、これもリアクター、これは確か商用リアクター、とスティーブが指…

スティーブ&ボニー (22) ゲニウス・ロキの生まれるところ

次の日の朝は、スティーブとボニーは私が疲れていると気を使って、声をかけないでいてくれたみたいで、遅めに目覚めた。結局、この日まで時差ボケはスッキリとは治らないままで、熟睡感はないままだった。丹羽先生やジャックは、早朝の飛行機で出立したはず…

スティーブ&ボニー (21) 宇宙語で話す

参会者が三々五々に散っていくロビーで、坂東先生を見つけた。もうひとり、日本人の男性も一緒にいる。やはり今回の会議に参加するために日本から来たのだという。この会議は、なんだか学術的な集まりとも思えない、不思議な雰囲気でしたね、と誰からともな…

スティーブ&ボニー (20) 絶望のような希望

発表は終わったものの、あともうひと仕事、パネルディスカッションのパネリストが残っている。パネリストは、私と丹羽先生とアメリカ人のEPA打倒に燃えている研究者に、司会役のアメリカ人が一人。低線量被曝における防護政策に関するパネルディスカッション…

土とともに暮らすこと

飯舘村長泥地区の除染残土を使った農地造成事業にかんして、野菜の栽培実証実験が行われたということが報じられて、局地的な騒ぎになっている。経緯を追っていない方のために簡単に解説をしておく。飯舘村の南側にある長泥地区は、飯舘村内で唯一避難指示が…

脱色された物語のこと

ここのところ、読む本読む本、よい本ばかりにめぐり合っている。これだけすばらしい本があるのだから、自分が書くことなんてないんじゃないかな、と思って読書を楽しんでいた(自分がやらなくても他によい仕事をする人がいるなら、自分はしなくていいや。と…

スティーブ&ボニー (19) 初恋のようなハグ

発表の日の朝は、まだ薄暗い夜明け前に起きた。地下の部屋で、ベッドの上に持ってきた着物と小物を並べる。小さめだけれど、クローゼットに姿見がついていてよかった。これがなければ、ボニーに大きめの鏡を貸してもらうようにおねがいしなくてはならないと…

十周忌

母が亡くなったのは震災から8ヶ月前だったから、今年がちょうど十年目になる。あたりまえのことではあるけれど、その時には、一年も経たないうちに大震災と原発事故が起きるとはついぞ知らず、葬儀のあとの脱力した、一方で、どこかしら高揚したところのある…

スティーブ&ボニー(18) 「恐ろしいのは人間です」

夜闇に沈むハイウェイをヘッドライトとテールライトが流れていく。ときおりライトに照らされて浮かび上がる運転席のボニーの表情は、いつもと変わりない。油断なくしっかりと前方を見据え、ハンドルを握る。光の流れに身を沈ませながら、先ほどのソドムとゴ…

スティーブ&ボニー (17) ソドムとゴモラのケーキ

夕方になり、レセプションの会場に入った。レセプションではだいたいコース料理が出てくるので、おなかいっぱい食べられるはずだが、これまでの料理を考えると、味は期待できないかもしれない。200人程度は入るのだろうか、広い会場にたくさん並べられたクロ…

漁業者に決めさせるな、と、政府が勝手に決めることは違う

コロナ禍ですっかり関心も薄くなってしまったなか、福島第一原発のタンク内に溜められている「水」問題についての「関係者のご意見を伺う会」が第4回まで進められている。政府の言い分では、タンクの敷地は2022年夏が限界であり、規制庁による許認可にかかる…

スティーブ&ボニー (16) 風邪のスープ

ひとしきり話したところで、私の身体の冷えも限界に近づいてきた。折よく、ジャックはこれから打ち合わせがあるのだという。ジャックと別れて、私はボニーを探した。外に出て身体をあたためる甲羅干し作戦も、残念ながら変温動物ではない私にとってはあまり…

スティーブ&ボニー (15) 「オルマニーへのまなざし」

受付をしていなかったことに気づいて、会議室前のスペースに作られたカウンターへ向かった。発表者向けの受付へいくと、「ああ、あなたが! ようこそ!」と係の人たちが笑顔で迎えてくれた。傍らからスティーブが、主催の関係者と思しき人たちに私を紹介する…

スティーブ&ボニー (14)

コンサートが終わり、用意されていたバスに乗り込んで、私たちは帰路についた。空いている席を探していると、見たことのある顔が窓際の席に座っている。クリス・クレメントだ。ICRPの科学秘書官だ。今回、私がここに来ることになった元凶の一人。隣の席が空…