2010-01-01から1年間の記事一覧

葬送の夏

五年前、祖母が亡くなった夏も炎暑だった。自家用車から降りて葬祭場へ入るまでの寸秒で、喪服は重たく肌に張り付いた。季節を違える程に冷房のいれられた斎場で、瞬く間に汗は冷えた。 祖母の病が発覚し亡くなるまでの二年間、病身を押して看護をした母は、…

本家の記憶

昨年、大伯父房之助が死んだ。九十九歳。あるいは百歳になっていたかもしれない。縁者である母が入院中のことであり、委細はわからない。数年前から、老人ホームへ入居していた。葬儀はひどく簡素で参列者も少なく、当地に長く大地主として羽振りを利かせた…

紅葉の頃

紅葉の頃、現場での一服休みの時のことだ。 手伝いの若い人が話した。 彼が掛け持ちしている現場は、山間の渓流沿いにある。 車両も入らない細い橋を渡った先、どうどうと絶え間なく響く滝の音にさらされ、滝飛沫を浴びながら、いちにち作業をするのだと言う…

イスラエル/パレスチナ 『ルート181』によせて

何本かののパレスチナ、イスラエルのドキュメンタリーを見て感じたのは、私は、パレスチナの事を知らない以上に、イスラエルの人々の生の声を知らない、ということだ。 イスラエルの世界的イメージは、最悪に近いだろう。無辜の民を虐待し、虐殺する狂信的な…

『海鳴り星』

正月に帰省したときに、祖母が一番好きだという今井杏太郎の句集『海鳴り星』を借りてきた。 句を追っていくうち、火事で焼けてしまった祖父母の家の日当たりの良い縁側で、ふたりが並んでおだやかに備前焼を眺めている光景が浮かんできた。祖母はいつも仕事…