虫電話

リリリリリ、リリリリリリ

夕刻に、虫の鳴き声が聞こえるようになると、
ぬは急にそわそわしはじめます。

小走りに外へ向かって、
じっと虫の声を聞くと、
目をきらきらさせながら、
おうちへ走り込んできます。

「お山のるーとらたちから虫電話がかかってきたの!」

人間のひとはやさしくこたえます。

「へえ、るーとらたちは、なんて言ってるの?」

「あのね、山でくだものやきのこがたくさんなってきたから
 取りにおいでって」

「今の時期はなにがとれるの?」

「あのね、クリでしょ、きのこでしょ、
 それからキレイなあかい実もとれるの」

「そう、それなら、いつでもお山に遊びに行ってくるといいよ」

人間のひとと話し終えると、
ぬはしあわせな顔をしてお山のことを考えているのでした。

ある日の夕刻、いつものように外で虫電話をきいていたぬが、
あわてて玄関に走り込んできました。

「タイヘン、タイヘン!
 るーとらから、きんきゅうの虫電話がかかってきた!」

「なんて言った来たの?」

「あのね、お山でアケビの実が熟して割れ始めたから、
 早く来ないとなくなっちゃうよって」

「じゃあ、明日にでもお山にいっておいでよ」

「うん!」

「ちゃんと水筒を持っていくんだよ」

その夜、ぬはリュックを出してきて、水筒とタオルを何度もかくにんしながら、カバンにいれていました。