可視化の試み

■点描

縁側のない部屋、南側に大きく開いたサッシからは、明るい光が差し込む。 角度を低くした陽差しは光うすく目に眩しい。その一条一条が、庭の樹木の葉にあたり、しろい光が散乱する。 家主不在の間、雑草が生い茂り、荒れていた庭も、今はすっかり元のように…

■ 向こう側

「荒涼とした光景」、こういう描写をするべきなのかどうか、わからない。 夏に来た時とまったく変わらない。 いや、あの時青々と生い茂っていた草は、色を失いつつあり、それがいっそう、荒涼とした感を際だたせている。 ただひとつ、違うのは、急いで作られ…

■農圃

目線をやや上に向け、視界の焦点距離を遠くすると、向こうに松林が見える。 一年前までは、見えた。 今は、あてどのない、空とも海ともつかぬ、ただ、広い、〈向こう側〉が見える。 〈向こう側〉の手前には、赤色灯を点した検問があり、警備員が佇んでいる。…

■磐城太田駅

その駅は、元から、無人駅であった。 だから、今なお、無人である。 そう思って立ち寄った小さな駅舎の前には、軽トラックが一台停まっている。 訝しく思いながら、咎め立てする人もいないホームへ足を踏み入れる。 久しく車輪を載せていないレールは赤錆を…

■20km地点

集落を分断するバリケードの内と外で、世界は構成される。 そこに暮らす人は、かように述べなければならない。 トナリ ハ タチイリ キンシ クイキ デス 同じゲートは、海沿いの道にもしつらえられ、あるいは、山へ向かう道へ、たんぼ道の途中に、ありとある…

日記に名前を

今、何が起きているのか、自分自身が何を感じているのか、可能な限り、可視化してみたいと思った。 それが目に見えないから怖ろしいと言い、将来どうなるかわからないから恐いのだ、と言う。 違う。 問題は物質そのものではなく、未来でもない。 人が何かを…