■農圃
目線をやや上に向け、視界の焦点距離を遠くすると、向こうに松林が見える。
一年前までは、見えた。
今は、あてどのない、空とも海ともつかぬ、ただ、広い、〈向こう側〉が見える。
〈向こう側〉の手前には、赤色灯を点した検問があり、警備員が佇んでいる。
J-Village間近の南側ゲートに比べれば、はるかに落ち着いた、ともすれば牧歌的とさえ見える検問は、大型トラックや工事車両と思しき乗用車が来るたび、頻回に開閉される。
検問の手前100mほどのところにある、コンビニの棚の雑誌はまばら、商品の品数も少なく、空いたままの棚もある。にも関わらず、店内に入った私を見る、女性と男性の組み合わせの店員の表情はいやに朗らかだ。駐車場に入ってきた消防隊員と思しき一行も、朗らかに談笑しながら消防車両から飛び降りる。
目の前に開ける、はろばろとした田園地帯。
ここは、豊かな農作地帯であった、だった、これからも、そうあり続ける、なければならない。
作付け制限が行われ、雑草を生やすばかりであった田の草も今は刈り払われ、資材を満載したトラックが横付けされ、その横をトラクターが黙々と耕起する。
この地の、線量は高くはない。
にも関わらず、
いちまい、帳が降りるように、静けさがあたりを覆っている。
空気が、
ふるるふるると震えている。
ため込んだ名状しがたい何かを吐き出すように。