■ 向こう側
「荒涼とした光景」、こういう描写をするべきなのかどうか、わからない。
夏に来た時とまったく変わらない。
いや、あの時青々と生い茂っていた草は、色を失いつつあり、それがいっそう、荒涼とした感を際だたせている。
ただひとつ、違うのは、急いで作られた仮堤防。
瓦礫の撤去を終えたあと、ここでは、動くものが、ない。
ここは、ここは、どんな場所であっただろうか。
たしか、防波堤の間近まで、集落があったのではなかろうか。
防波堤の上を、白い犬を連れた老人が、散歩していたのではなかろうか。
潮風に晒され、何もかにも潮錆びた集落の、笹垣に粗朶で組んだ垣が添えられ、入り組んだ集落の向こうには、区画整備された田園が広がり、収穫の時期を終えた今、空の青が地の色に映え、時間はどこまでも無限で、海は松林と集落に遮られ、潮騒も遠くに聞こえていたのではなかったか。
いや、それは、また違う場所であったかもしれない。
今年の正月は、いわきから、ずっと海岸を遡りながら、原町へ向かった。
海辺に漂着した流木を拾った。
波の音を聞いた。
浜辺は、地形によるものなのか、場所ごとに、微妙にその砂質を変えていた。
砂利浜はことに面白く、波が引くたびに、じゃーらららら、、、と歌うように響かせ、その音が途切れる前に、もう一度あたらしく、じゃーらららら、、、かぶさり、無限にそれが繰り返されるのだった。
地と海の境界が明確であった頃の記憶は、混乱し、やがて、曖昧なぼんやりとしたものへと変わっていく。
ただ一度の境界への侵犯。
潮騒の音が、やけに近い。
もう、しばらく、海辺で流木は拾わない。