■既視の
そこは訪ねてみれば、すでに馴染みの場所であったような、そして、見知らぬ場所であるような、こう挨拶すればよかった。
「初めまして、ただいま」
鮮烈に残るのは、出会った人々の、つよい眼差し。
彼女たちは、確かに、選んだのだ。
自分自身にとって、なにが、もっとも、大切なものであるのかを。
拭いさりがたい喪失を経て、守るべきものを、みずから、見いだしたのだ。
喪失の記憶は、永久に消えることはない。
あがなうには、自分自身で、選択するしかない。
それが、どれほど、過酷な要求であるのかは、わかっている。
誰にも、その選択を強いることはできない。
けれど、喪失の記憶は、絶えず、問いかけるだろう。
あなたは、何を望むのか。
あなたが、ほんとうに大切なものは何なのか。
私?
私にとって、大切なことは、生きて死ぬこと。
なるべくならば、できるだけ、穏やかに。
そうして、いちばんの望みは、死ぬときに思い浮かべる景が、うつくしいものでありますように。
それだけ。