■かえして、ほしい。

 レンギョウの群生する護岸壁は黄金色に染まり、風が吹くたび、右に揺れ左に揺れ、垂直方向に光が走る。
 見上げれば、ほのかな桃色、枝垂れ桜の濃桃色、モミジの黄緑に托葉は紅色、つきぬける空。
 山は、息吹に合わせしずかにしずかに鳴動する。
 ゆらぐ、ゆらぐ。
 
 あなたは知っているだろうか。
 この景が、あのバリケードに阻まれたグラウンドゼロの地点まで、途切れなく続いていることを。
 ふたたび植物は芽吹く。
 刈られることのない草が生い、人の暮らしの痕跡を掻き消す、またひとつ、ひとつ、と。
 わたしは、それを正視できないだろう。
 バリケードの外から、ただ夢想する。
 そこに、あるだけで満たされていた、美しくも退屈な日常が続いていた時のことを。

 かえして、ほしい。

 言葉にすれば、なにもかにもが崩れ去ってしまう言葉であることを知りながら、それでも、なお。

 かえして、ほしい。

 ゆらぐ季節の移ろいに、せめて、祝福を。