8月16日 南相馬・鹿島・船

 同8月16日、海近く。
 夕方前、晴れ。


 倒れたままの墓石。



 もう一度、震度7が来るって。
 どっかの予言者が○月×日にまたおっきいのが来るって言ってるらしいよ。
 そんな話がまことしやかに囁かれる事も減り、時折、そう言う人に出会うと懐かしい気持ちさえするようになってきた。
 だけど、倒れた墓石を直す気にはならない人も、まだ多い。
 あるいは、直す余裕さえないのかも知れない。
 それでも、盆の迎え花。


 ようやく風景が見渡せる、杉木立の谷間。
 海とは反対側の方角に、漁船が身を横たえている。
 去年までの今の時期、出穂したばかりのまだ固い稲の花が香っていた水田に、
 仰向けになり、横倒しになり、斜めにつんのめっている。



 4月に来た時、
 ようやく自衛隊がかき分け、発掘した道路をゆけば、
 美田の名がふさわしかったそこには、
 ヘドロが積もり、重油の匂いが立ちこめ、
 あたりに散乱する漁具やプラスチック製のカゴ、木屑のような柱、アルミ製の柵の残骸。
 やけに海が近く、それが何を意味するのか、ほんのわずかな時間考えて思い当たった後に、
 焦点を合わす先を探しながら、呆然とただっぴろい風景を眺めた。
 こつぜんと消えた景色に、空はひろく、海はおだやかで、
 地上の惨状は、まるで、夢なのだと言わんばかりに、
 たゆたう波を、遠くに見つめていた。


 いま、潮に浸った田にもあたらしく緑の草が茂った。
 海原を草田に代え、
 主を失った船が、あの日の姿のままに、まどろんでいる。
 見るのは、大海原をかける夢。
 自在に波と波のあいだを滑り抜けた、とおい夢。