そうして、また、光とともに闇も羽化する。

 胸元から下げた写真は二枚、津波で流された孫の遺影である。
 東京からの人が話すたびに、睨み付けるような眼差しで、写真を持ち上げる。
 目の奥に湛えられた深い憎悪。
 口元が動いているのが見える。
 呪詛の言葉か。
 本当に意義があることをしているのか、孫に見せるのだ、と。
 彼の家は立入禁止区域にあり、捜索は許されなかった。
 彼の孫は、生死も定かでないままに、打ち捨てられた。
 その慟哭を、我々のうち誰ひとりとして受けとめなかった。

 会場にいた、彼と同じ町の人に、後から聞いてみた。
 その人は、やや自棄気味に笑いながら、言った。
 「そういう人、たくさんいますから。」

 闇は、こうして培われた。




 





(守るべきものをすべて失った人間は、呪詛と憎悪を拠り所として、かろうじて生きながらえるしかない。
 誰でも、わたしでも、そうだ。)