ほんとうのこと
近ごろの「ぬ」は強情だ。
仕事を終えて話しかけても、こちらの言うことを最後まで聞かない。
途中、必ずこう言って遮る。
ほんとうのことをおはなししようよ、ほんとうのこと。
「ほんとうのことってなぁに?」
そう訊ねると、「ぬ」は目に力を込めて考えるそぶりをする。
それから何も言わずに、ふいっととらすけの小屋へ行ってしまった。
じっと耳を澄ましていると、ぬがとらすけに話している声が聞こえる。
あのね、きょうほんとうのことがあったんだよ。
お空がね、空でいっぱいだったの。
お空に水が流れて、ぬは気持ちよく泳いだんだ。
とらすけも今度いっしょに泳ごうよ。
とらすけは小さく鼻を鳴らしている。
それからしばらくすると、ぬは私のところへ戻ってきて、私のおなかへちょっと乱暴に顔を埋めた。
きょう、ほんとうのことがあったの。
私は何も言わずに、「ぬ」の頭を撫でてやる。
ぬはゆっくりと耳をパタパタさせて、しばらくそうしていた。